内見に行った不動産屋から物件を購入しなくてはいけないのか?

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「業者を乗り換えたい」とお客様が考えたとき、合理性があることがあります。現実の不動産会社や営業パーソンは、スキルが低い、法令違反の営業活動、料金に見合わない、そもそも態度が悪いなどのケースもあるからです。

法によれば、媒介契約の成立には「書面」による契約を締結を要件としています。記名押印前であれば、業者の選択は、法的にはお客様の自由です。そのため、お客様により業者の「乗り換え」を要望された場合には、大手なども含め、受け入れているのが実情です。

ただ、業者の活動が購入意思の形成に影響するようになると、業者の変更はグレーです。内見の段階で『微妙だな』と不満を感じた場合には、早々に手を引くのがよいと思います。

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不動産業者の交代をしてはいけないのか

同じ物件が複数の業者から広告がされていることがあります。乱暴な業者、いい加減な業者、しつこく契約を迫る業者のような場合、『最初に内見に行った不動産屋から物件を購入しなければならないのか』という疑問がうまれます。不満があるにもかかわらず、鍵を開けるだけで仲介手数料が数十万なのでしょうか。

実は、お客様のみならず、不動産業者でも葛藤となっている部分です。当初の不動産業者を外す行為を、俗に「抜き行為」と言います。

実際のところ、内見だけでは、法律的にはお客様にリスクは存在しません。内見だけでは、媒介契約(仲介を行う契約)の成立を満たすのに至らないからです。

抜き行為とは?

本来の意味の「抜き行為」とは、依頼者(売主・買主)が不動産業者との間で媒介契約または代理契約を締結しているにもかかわらず、顧客を横取りする意図をもって、別の不動産業者が横やりを入れて、依頼者を引きずり出して媒介契約または代理契約を締結することをと言います。

お客様主導で不動産業者の変更をするとき、不動産業者からは、「抜き行為による宅地建物取引業法違反!」といってお客さんが行う行為を非難するような使い方もされます。

しかし、宅地建物取引業法は不動産業者を縛る法律です。お客様を縛る法律ではない以上、お客様が宅地建物取引業法を違反するというのは法律的ににおかしな状態です。つまり媒介契約を締結しているのでなければ、そもそも非難される筋合いありません。

手数料請求の根拠は媒介契約

業者の間で媒介契約を締結していなければ、お客様が誰に依頼するかは本来は自由です。

媒介報酬(仲介業務による報酬)を得るならば媒介契約を成立が必要です。媒介契約を成立には、報酬に関する事項など、各種の必要事項を記載した媒介契約書を作成して、依頼者に交付しなければなりません。これは宅地建物取引業法の第三十四条の二の規定に基づきます。

この媒介契約が成立していなければ根拠はありませんので、抜き行為といっても、本来は非難することはできません。

業者の努力と条件の成就

とはいえ、業者の努力により「事実上、媒介契約が成立しているじゃないか」と言えるような状態があります。初動より踏み込んで、契約が近づいた状態になると、抜き行為は不法行為・損害賠償として問題になることはあるかもしれません。

通常の住宅売買とは関係は薄いかもしれませんが、不動産の取引では、仲介手数料が数千万円になることもあります。

本来的には媒介契約を締結せず仲介料を請求す行為は宅地建物取引業法に違反する行為です。免許停止につながることをする不動産業者はいません。つまり、書面による媒介契約前に仲介手数料を請求することできません。

ただ、数億・数十億の物件だと仲介手数料は数千万円になりますので、免許停止などの違反覚悟で、不法行為として損害賠償を請求する場合もあるかもしれません。

不法行為としてよく引用される条文が、民法130条です。同条の規定には以下の通りにあります。

民法130条(条件の成就の妨害等)
1項.条件が成就することによって不利益を受ける当事者が故意にその条件の成就を妨げたときは、相手方は、その条件が成就したものとみなすことができる。
2項.条件が成就することによって利益を受ける当事者が不正にその条件を成就させたときは、相手方は、その条件が成就しなかったものとみなすことができる。

法律の条文なので、少々解りづらい部分もありますが、話が進むとお金(仲介手数料)を支払うことになるので、仲介業者を通した契約の成立を妨害した場合には、信義の観点から、条件が成就したものとみなされると主張できるというものです。

裁判例では、昭和45年10月22日の最高裁判所の判例( 昭和45(オ)637)があります。

最高裁判決昭和45年10月22日:宅地建物取引業者を排除して売買契約が成立した場合に停止条件の成就が故意に妨げられたとして右業者の報酬請求権が認められた事例

土地等の買受人が、その買受につき宅地建物取引業者に仲介を依頼し、買受契約の成立を停止条件として一定額の報酬を支払う旨を約したのに、買受人が右業者を排除して直接売渡人との間に契約を成立させた場合において、右契約の成立時期が業者の仲介活動の時期に近接しているのみならず、当時その仲介活動により買受人の買受希望価額にあと僅かの差が残つているだけで間もなく買受契約が成立するに至る状態にあつたのであり、しかも、買受契約における買受価額が業者と買受人が下相談した価額を僅かに上廻る等の事情のあるときは、買受人は、業者の仲介によつて間もなく買受契約の成立に至るべきことを熟知して故意にその仲介による契約の成立を妨げたものというべきであり、業者は、停止条件が成就したものとみなして、買受人に対し、約定報酬の請求をすることができる。
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=53197

かいつまんで言いますと、土地の購入を、不動産業者に仲介委託していたケースです。業者の仲介業務の活動により間もなく売買契約が成立するという状況で、買主も、業者の仲介によって間もなく売買契約の成立に至るべきことをわかっていたにもかかわらず、故意にその業者の仲介による契約の成立を妨げたというケースです。

このケースでは、仲介委託契約が成就したものとみなして、同契約に定める報酬の支払いを命じました。

情報提供に不熱心な業者に対する抜き行為

住宅の購入を検討できる資料を、俗に一件資料といいます。囲い込みとも関連して、元付となる物件の資料の提供には、熱心な業者と不熱心な業者の2種類に分かれます。

情報の提供を充実させている業者さんは、自社サイトの専門システムや、不動産テック業者のシステムを利用して、他業者に対して一件資料を提供しています。資料・情報を透明化して、業務を誠実に行う業者を抜く行為はマナー違反です。

資料

充実した資料の提供は早い判断のカギ

一方で、一件資料の提供や資料の閲覧のシステムを設置しない業者もいます。資料の閲覧にハードルを設けるわけです。業者の方針は、資料を見るまえに内見をしてほしいという方針です。事前の検討に十分な情報がない以上、とりあえず内見をさせてもらうほかありません。抜き行為を行うのはやむをえません。

抜き行為が不法行為になる具体例

それでは、仲介業者の仲介業務の活動により条件が成就するとはどのような状況を指すのでしょう。

実際の不動産購入では、スパッと竹を割ったように早く判断をするお客様だけではありません。お客様の不安や心配に答え、こまごまと動くようなことがあります。要は、不動産屋の努力でお話が進み、契約の申込を表出する状況であれば、条件の成就と言えると思います。

もっとわかりやすく言うと、一般的な心情で「今回の業者さんはいろいろ世話になった。ありがとう」と感じさせるような場面では、やはり限りなくグレーになるといえます。一般的には以下のような状況と理解されています。

購入申込を差し入れた

購入申込を差し入れるときは基本的な条件の提示がされているはずです。基本的な条件とは、1)契約の価格 2)契約の日時 3)残代金支払いの期日 4)手付金の額 5)ローン利用の有無 といった契約書の記述に必須の要素です。このような事項が記載されている申込書は、お客様の意志が強い購入申込であり、お話はかなり具体的と言えます。

申込のなかには、仲介業者の主導で、「先着順ですから、とりあえず申しこんでおきましょう!」などというケースもあります。お客様が業者の口車に応じてしまったケースです。このようなケースでは、基本的な要素が不明瞭なこともあります。申込を差し入れたと判定しない場合があります。業者の口車など、お客様の信頼を損ねる場合には、お客様の心が業者から離れるのはもっともなことです。

価格交渉などを行い承諾を得た

価格交渉を行うのは、申込の提示の一環のはずです。価格交渉は業者の努力の一つとされます。通常はお客様も軽い気持ちでは交渉を申し出ることもありませんし、業者側としても請ける場合は気が重いものです。価格交渉が成立したのであれば、条件が成立したと言えるでしょう。

しかし交渉が成立せず、業者の努力が実を結ばない場合もあります。このような場合には条件は成就したとは言いません。

ローンの審査を通した

購入申込と一体となり住宅ローンの審査を対応してローンの審査(事前審査)が整った場合、条件が成就したとみられる傾向があります。契約に向けてのローン審査は不動産業者の努力の大きな部分を占めます。費用と時間をかけて必要な資料を取得する必要もあるからです。

不動産業者に勧められるまま、「とりあえずやってみましょう」とやる場合など、住宅ローンの審査のなかには与信調査程度の意味の軽い審査もあります。まだ購入意思が不明瞭な時点でローン審査を行う場合には、条件が成就したとはいえません。

顧客の求めにより詳細を調べさせた

お客様によっては、ご購入の意思を固めるため、詳細の資料の開示を求める場合があります。求めに応じ業者が資料を提出し、お客様の意思決定に役立ったとなれば、業者の努力が認めらる可能性があります。一戸建てであれば測量図、設計図など。マンションであれば管理規約、長期修繕計画、などでしょうか。インスペクションの対応も含まれるでしょう。これらは費用が掛かる場合もあり、業者の努力の一つです。

とくに、「重要事項説明書」の提示は重要なアクションです。売買契約を成立させるには、宅地建物取引業法35条により、「重要事項説明書」の説明義務があります。契約の数日前に「重要事項説明書」の案文の開示を受けることが多いと思いますが、このような状況ならば確実に条件が成就したと見られるでしょう。

すでに媒介契約を取り合わした

すでに媒介契約(仲介業務委託契約)を取り合わした段階での抜き行為は、お客様の一方的な不法行為となります。

抜き行為に当たりづらい例

まず、何物件も案内させた上に、他の業者に乗り換える行為は、道義的には抜き行為に当たるかもしれません。法的にも非常にグレーです。

しかし、熱心な業者の勧誘に応じて、1~2件内見しただけだったり、オープンハウスをのぞいた程度ならば、法的は問題はないとされます。原則は、媒介契約書を締結する前であれば請求根拠がありませんし、購入の判断を形成したと考えづらいからです。

チラシをもらった、さわりについて質問をしたなど、表面的な情報をもらった場合だけでしたら、抜き行為は法的にも道義的にも当たりません。

条件交渉を行ったが条件が不成立だった等の場合は、「不成功」ですので、成功報酬を前提とする以上、抜き行為には当たりづらいと考えられます。

不動産業者の抜き行為の実態

不動産業者はお客様に「マナー」を求めますが、不動産業者はマナー通りではありません。実際には大手なども含め、多くの会社が抜き行為は経験があります。お客様も必要以上に仁義を重んじる必要はなのかもしれません。

当社がされた抜き行為

当社は仲介手数料無料の業者で、規模の割にはブログなどで目立っています。他の不動産業者からすれば、抜き行為していると思う業者さんもいるかもしれません。実際にはその逆もあります。

明確に認識しているので1回(可能性があるものだと2回)ですが、当社でも、大手業者から逆に抜き行為をされたとこもあります。そのころの当社は免許番号も(1)でしたので、大手の方が安心で、心配になったということだと思います。

しかし、抜いた業者が謝罪で来社したり、念のため確認をすることはなく、「遠慮なくいただく」のが実情です。

なお、この1回も売主業者さんから契約成立後に「可能性のある話」として聞いたのでわかったものです。担当者の名前は忘れましたが、どの会社かは覚えています。確認できるのは1回だけですが、他にもあったのかもしれません。

業者同士の抜き行為

手数料有料の業者どうしでも、抜き行為は実際には行われています。一般媒介で売りに出されている状況で他の業者が売主に直接商談しに行く場合、客付け業者を飛び越して、元付仲介業者が抜き行為を行うケースなどはしばしば聞きます。

交代を依頼された場合の当社の対応

お客様の要望により、すでに他社で見学済みの物件を当社で業務対応のリプレイス(交代)を求められた場合には、事情を拝聴して対応しています。お客様から状況を確認して、お客様にも当社にも不利にならない場合です。

業務対応の水準が低い業者からの交代

不動産業は、いわゆる「ブラック企業」というのも多く存在し、会社によっては、営業マンの出入りの激しい業界でもあります。看板は有名でも、必ずしもレベルが高いわけでもないようです。お客様が元々の不動産業者の対応に不満を感じた場合、当社でもリプレイスに応じることになると思います。そこは当社でも遠慮をしていません。お客様のご不満がもっともな状況とは、例としては、以下のようなケースです。

  • 営業対応がシツコイ・威圧的・上から目線
  • うそ、偽りが多い
  • 知識不足、経験不足で提供される情報レベルが低い
  • 諸費用等の説明がない(とくに仲介手数料)

とくに、仲介手数料の部分は盲点としては重要です。「会って初めて聞いた」「申し込みまでわからなかった」という方も多くいらっしゃいます。高額な仲介手数料は状況によっては言いづらいことですが、避けては通れません。実際には初めて聞いて驚いたということも多いようで、私も逆に驚くことがありあります。

ちなみに、仲介手数料は、お客様と不動産業者のトラブルになりそうな項目なので、下記の写真のような「報酬額表」というポスターを店頭で掲示することが義務付けられています。報酬額表の掲示は不動産業者免許の審査事項になってます。

報酬額表
報酬額表の例(当社にて掲示)

お客様の依頼により対応する場合

手数料は100万円単位の出費ですから大きいものです。もし当社が交代を辞退したとしても、他の業者に依頼すると予想されるケースもあります。法的には、仲介契約を締結する前なら、まだ「ゆとり」がありますので、このよう状況でも、交代をお受けする場合があります。

ただ、業務の進行状況が進んでいる状況ですと不法行為になる可能性もあります。また、ローンや物件調査、交渉など、業務に手を尽くした後に交代する状況となると、ほんとうに単なる「横取り」ですので、気持ち的には忍びないと思います。したがって進捗の状況により判断することになると思います。お話をお聞かせくださればと思います。

この記事の作者

2010年から(株)ロータス不動産代表。宅地建物取引士、公認不動産コンサルティングマスター他。デリードコーポレーション(現株式会社セレコーポレーション)でマンションのマーケティング・商品企画を、ヤマト住建株式会社で建売分譲の開発と販売を経験しました。早稲田大(法)95年卒。在学中は早大英語会に所属。

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